主要な学び
◇エポック授業(中心授業)とは
シュタイナー教育の大きな特徴とも言えるのが、エポック授業(中心授業)です。
エポック授業とは、小中高すべての学年の1時間目に毎日行われる110分の授業で、専科以外の国語、算数、理科、社会にあたる教科を2~4週間にわたって集中して学ぶものです。
例えば、算数のエポックだったら、毎朝110分間集中して算数を学び、それを3週間にわたって連日学び続けます。歴史のエポックも同じように、毎日110分を3週間にわたって学んでいきます。脳の活動が活発な朝の時間帯に、毎日特定のテーマを集中的に学ぶことによって生徒自身が授業内容に深く入っていくことができ、学習効率が高まります。
授業の流れも学習の定着が意識されていて、人間の呼吸のように「集中」(吸う)と「リラックス」(吐く)が交互にくるように組み立てられています。
朝の挨拶が終わったら、リズムの時間に入ります。詩の朗唱や歌、楽器の演奏、踊りなどを、豊かなイメージの中で、からだ全体を使って表現します。そのような形で自然と学びに入れるような準備(吐く)をしてから、メインの授業(吸う)に入ります。高学年になるとパーカッションやジャグリングを取り入れたりと、何をするかは学年ごとに移り変わっていきますが、いずれにしてもリズム運動をすることで呼吸と脈が整い、その後に行うメインの授業内容に集中できるようになるのです。
学びの準備のためのリズム的動きを伴う時間は1年生で110分のうち45分くらい、5年生くらいで20~30分、高等部は10分程度とだんだん少なくなっていきます。そうやって学年を追うごとに、すぐ集中できるようになっていくのです。
準備(吐く)が終わったら、前日の授業の振り返りを行い(吸う)、先生と生徒が会話をすることでそれぞれに気づきが出てきます(吐く)。その後、その日のメインとなる新しい知識を先生を通して聞き(吸う)、ノートに写したり、自分でまとめたり、試したりしながら書いていきます(吐く)。
最後は先生がお話をしてくれます(吸う)。1年生はメルヘン、2年生は動物寓話など学年によってテーマは変わりますが、このように緊張(吸う)と緩和(吐く)が交互にあるため、1年生でも110分の間、まったく疲れることなしに授業に集中することができます。
生徒は帰宅後、A4サイズの練習帳に自分自身で授業の内容をまとめ、翌日に発表します。そこで教師と生徒が深まった話をした後に、清書として「エポックノート」を書きます。エポックノートとは学んだ知識を一度寝かせてからまとめとして書く、シュタイナー学校の教科書とも言える存在です。これが一連のエポック教育のサイクルです。
授業内容は生徒の潜在意識に刻まれるため、終わったら一時的に忘れてもかまいません。それは、記憶が何度も思い出すことを通して強化されていくものだからです。知識は寝かせれば、その人の血肉になって消化されていきます。次の日にもう一度振り返りをして、前日に学んだことを意識に上らせると、より明確になっていくのです。このように、エポック授業では先生が何週間もかけて同じ内容に取り組み、生徒たちの記憶に定着していきます。
◇各学年の特徴的なエポック紹介
1年生
学校に入学した1年生はまだ幼児期の余韻を響かせています。担任の先生のもとで、ファンタジー豊かなお話や、美しい色彩に包まれて最初の学びを始めます。
フォルメン線描
文字や数字の根底にあるフォルムのみを純粋に学ぶ、「フォルメン線描」。直線や曲線に対する形の感覚をフォルムを描く中で身に着けていきます。教師をまねてたくさん身体を動かし、歌い、そしてクレヨンで描いていきます。
文字(国語)
メルヘンやイメージ豊かなお話を通して、ひらがなや漢字に出会います。「フォルメン線描」で練習した土台の上に、たっぷりと色彩を使って文字を学びます。
数(算数)
小人さんやお姫様の出てくるお話を通し、イメージを持って数字を学びます。そして、身体を動かし、リズムを通して数や計算の練習を行います。土台の上に、たっぷりと色彩を使って文字を学びます。
2年生
2年生の時期、子どもたちは徐々に目覚めていきます。善と悪、美しいものと醜いものを意識するようになるのもこの時期です。
フォルメン線描
左右対称の鏡映しのフォルムを学びます。常にもう一つのフォルムを見ながら逆の動きに描く練習の中で、子どもたちの心身のバランスが養われます。
国語
平仮名だけでなく、カタカナ、漢字、言葉をさらに学んでいきます。
算数
九九が美しい模様になることを体験します。例えば2の段であったら、1の位の数をノートに書き、(2の段 2,4,6,8,0 (1)2 (1)4・・・・・)一けた目の数字を順番につなぎ合わせていくと、大変美しい幾何学が生まれます。
3年生
子どもの意識がこの時期、より周りに向かって目覚めていきます。ですから3年生の時期、子どもたちは徐々に他者との間に距離を持つようになります。そして、自分の足でしっかりと立ち、この大地とつながりたいと感じ始めます。ですから3年生では、農業、家作り、職人のエポックを学び、自分の手と足を使って仕事をしていくのです。
農業
農家の人の一年にわたる仕事を学びます。米作りを学び、その中で自分たちも実際に一年間かけて稲を育てます。
職人
豆腐屋さん、鍛冶屋さん、パン屋さんのような日常生活にかかわる職人さんが、どのように仕事をしているのか学びます。
家作り
家がどのようにできているのかを学び、自分たちでも大工仕事をし、学校に役立つものを作ります。
4年生
4年生になると身体もより安定し、子ども一人ひとりの個性がいままでより、よりはっきりとし、全体をつかむ力がついてきます。そして、メルヘンの世界でなく、周りに向かってより目覚めたことを通して、自然に対しても、より目を向ける力が備わってきます。大きな変化が現れてくる時期といえます。
動物学
メルヘンの世界ではなく、周りの現実世界に目覚めたことを通して初めての理科の学び、動物学が始まります。まずは人間の体をみんなで観察しそのあと実際に人間の体と比較しながら、どのように動物たちがどこで、どのように生きているかをき生きとしたイメージを働かせて、学びます。
郷土学
初めの地理は郷土学から始まります。まずは学校の地図を描くことから始め、自分が育った地域の歴史などを含めた郷土学を学び、由緒あるお寺や、いわれのあるスポットを巡りながら、地域との結びつきを深めます。
算数
自分と周りの世界が分かれ、分割された数を理解することができる年齢になったので、分数を学びます。
5年生
5年生は心身ともにバランスのとれた時期です。この年齢の子どもたちは時間の流れをイメージ豊かに把握できるようになります。現代から過去へとさかのぼる中で、子どもの創造力は膨らみ、子どもの心はより豊かに育まれていきます。
歴史
古代の人々がどのように生活していたか、古代インド、ペルシャ、メソポタミア、エジプト、ギリシャと順に学んでいきます。日本史も5年生から始めます。
植物学
まるで一人の人間の成長を見るように身の回りの植物に目を向け、キノコからバラのような花や実をつける植物まで学びます。
動物学
地理
自分の住んでいる地域から広がって、日本の地理を学びます。例えば、全く気候の違う二つの地域の生活が違うなど驚きながら比較し、日本の風土についての豊かなイメージを育んでいきます。
6年生
6年生になると思春期の入り口にさしかかかります。豊かに育まれた心は、この時期に内面化し、思考できる力が子どもの中ではっきりと芽生えてきます。
物理学
音響、光、電気、熱、磁力について日常生活の現象を取り上げながら学びます。学びます。物理学では、観察を通して法則を見つけ出していく思考能力が育まれます。
幾何学
5年生ではフリーハンドでさまざまな図形を描きましたが、6年生では定規とコンパスを使って、正確に美しく描きます。この行いは正確な思考の助けになっていきます。
天文学・鉱物学
地球と宇宙に対する意識が広がってくるこの時期に、天文学と鉱物学のエポック授業を行います。
地理
日本からアジアの学びをしていきます。
7年生
思春期になった生徒の内面には、物事を深く理解したい気持ちが生まれ、何に対しても、「どうしてそうなるのか?」という問いが生じます。授業では、問いに向かっていくことを大切にします。
化学
私たちの生活の中に存在している化学的な現象、燃焼と酸・アルカリがテーマです。
物理学
力学(てこの原理)の分野が学びに加わり、よりはっきりと法則を導き出していきます。
歴史
世界史ではルネサンスと大航海時代を、日本史では室町~安土・桃山時代を取り上げます。
数学
文字式や正負の数と代数の方程式、2乗、3乗の計算が導入されます。幾何学では、図形の合同と「ピタゴラスの定理」を取り上げます。
生命学
自然界における生命の誕生流れを学び最後に人間の誕生について学びます。
地理学
8年生
身体が大きく変化し、男女の違いがはっきりしてくるこの時期、自分の内側から興味、感心が芽生えてきます。この時期の生徒は自分で考え、はっきりとした意見を持ち始めます。
骨学
人体の骨格、筋肉について学びます。
幾何学
プラトン立体について学びます。今までに学んだ平方根や三平方の定理を用いた作図をもとに、立体を作成します。
地理学
ヨーロッパと南北アメリカを学びます。
劇
クラス担任時代が終わるこの年、大きな卒業劇に取り組みます。大道具、小道具、衣装、音楽、照明など、すべて自分たちで準備します。
歴史
世界と日本の産業革命から大戦、そして現代まで。
物理学
水力学 空気力学、電気学を学びます。